未来の価値 第40話 |
「なんだ来たのか」 「来たのかはないだろ。今日は金曜だよ」 騎士の話以降スザクと距離を置いていたのに、スザクは特に気にすることなく執務室に堂々とやってきた。だから、何をしに来たんだという意味を込めて言ったはずが、「ねぇ、もしかして曜日もわからなくなったの?働きすぎだよ!」と心配され、そう言う意味じゃないと言ってもキョトンとした顔で首を傾げるだけなので、「もういい、仕事中だから邪魔をするな」といえば、「じゃあ早く帰ろう」と勝手に机を片付けようとしてくる。「あと少しだから邪魔するな」と叱り飛ばしてようやくスザクはおとなしくなった。 金曜日。 それはスザクが政庁に・・・いや、ルルーシュの部屋に泊まりに来る日だ。 スザクはしつこい。 とにかくしつこい。 そして頑固だ。 頑固なルルーシュが折れるぐらい頑固だ。 いくら断っても騎士の話を押し通すに決まっている。 だから、話がうやむやになる頃まで距離を置きたかったのだが・・・今から帰すべきか?いや、毎週恒例となった泊りを拒絶すれば、イレブンが皇子を怒らせ、とうとう見限られたと噂が立ちかねない。 ・・・何より体力が限界だ。 睡眠導入剤兼安眠抱き枕のスザクはその辺もしっかりと気づいているから、何を言っても今日は泊っていく。必ずルルーシュを眠らせにかかる。 ああくそ、全部クロヴィスが悪い。 スザクに余計な事をふきこんだクロヴィスのせいだ。 スザクは馬鹿だからころっとだまされたんだ。 俺の騎士などになれば、近い将来必ず辛い思いをするというのに!! 「それでね、ルルーシュ」 「断る」 にっこり笑顔で話そうとするスザクの言葉は切って捨てる。 「僕、まだ何も言ってないよ?」 苦笑しながらそう言うが、こう対応される事を知っていたような、余裕のある笑みだった。それが余計に腹立たしく感じ、ルルーシュは柳眉を寄せた。 「お前の顔に書いてある。良いかスザク、俺は騎士を持つ気はない」 「断る。僕は君の騎士になる」 「スザク、選択権は俺にあるんだ。理解しろ」 笑みを消し、真剣な表情で言うスザクに苛立ち、眉間の皺をますます深めた。 「はいはい。わかったから、今はその話は後にしよう」 睡眠不足からルルーシュの機嫌が非常に悪いことに気づいたスザクは、真面目な顔から一転し、また笑顔に戻った。 「後?その話じゃないのか?」 「僕はいつも騎士の話をしてるわけじゃないだろ?」 「それはそうだが・・・」 でしょ?と笑うスザクに、頭ごなしに否定したことを反省したルルーシュは笑い返した。 「まあ、君の騎士になるのは決定してるし」 だから別に焦ってないから。 「・・・してないだろう」 自信満々のスザクに、ルルーシュは思わず低い声で否定した。 もちろんルルーシュのその反応は予想通りだと言わんばかりに、スザクはますます笑みを深めて首を傾げながら言った。 「ナナリーに、お兄様をお願いしますって頼まれた」 「お前、まさか!」 「話したよ、ナナリーに」 当然でしょ?といいうスザクの顔は、これで決まりでしょ?という自身に満ち溢れていた。なにせナナリーが「お願いします」とスザクに言ったのだ。「お兄様をお願いします」と、ナナリーが。今は離れて暮らしている最愛の存在のお願いなのだ。 それを無視できるルルーシュではない。 スザクは騎士にしない。 だがナナリーはスザクをルルーシュの騎士にと思っている。 だが・・・っ! ぐるぐると考えだし、ルルーシュが硬直したことに気付いたスザクは、流石ナナリーのお願いは強力だなあと思いつつ、勝手知ったるルルーシュの部屋と、執務室の奥の給湯室に設置されている冷蔵庫からペットボトルの水を取りだした。 解っていた事だけど、ナナリーのお願いはルルーシュを落とすには効果絶大だ。でもまだ悩んでるって事は、これじゃ足りないってことだよね。ホントに頑固だなぁ。あと一つ二つ何かあれば確実にルルーシュも落ちるんだけどな。 そんな事を考えながらソファーに戻り、硬直しているルルーシュを眺めながらペットボトルの水を煽った。 その時、突然執務室の扉が開き、スザクはペットボトルを投げ出し反射的にルルーシュの傍に駆け寄ると、扉とルルーシュの軸線上に立った。 ここは皇族であるルルーシュの執務室だ。 普通であれば、入出許可を貰うため、ベルを鳴らす。 こんな風に何もせずに扉を開くのはスザクぐらいのはずだ。 そう思ったのだが。 「ユーフェミア様!?」 扉の向こうにいたのは、花もほころぶような笑顔でたたずむユーフェミアだった。後ろにいたルルーシュはこの事でフリーズから回復し、「また来たのかユフィ」と、つぶやいたのが聞こえた。 その声は、どこか疲れているようだった。 「スザク、来ていたのですね」 ユーフェミアはこの部屋の主であるルルーシュの許可を貰うことなく、笑顔のまま室内に入ってきた。例え相手が同じ皇族でもそれは本来あり得ない事で、スザクは自分も同じことをしているというのに、思わず眉を寄せた。 しかも今はルルーシュの方が皇位継承権は上なのだ。 上位の皇族の執務室に許可なく上がり込むなんて。 人の振り見て我が振り直せという言葉があるが、スザクは自分にはルルーシュの部屋に自由に出入りする権利があると思っているため、彼女と自分が同列にいるとは考えていなかった。ルルーシュから見れば、二人ともやっている事は全く同じで、この二人はどうして許可を貰おうとしないんだと内心呆れていた。 だが、二人がそんな暴挙にでるのはルルーシュに対してだけだと知っているから、注意をするのももう諦めている。 「ユフィ、今度はどんな用なんだ?」 しかも、またSPを撒いてきたのか。 たった一人でやってきた異母妹に、ルルーシュは尋ねた。 「あら?用がないと来ちゃ駄目ですか?」 「駄目ではないが、今日はこれで4回目だろう?何か用があると考えるのが普通じゃないか?」 しかも前3回も碌な用件も無く、すぐに立ち去っていたのだ。 4回目と言う言葉に、スザクは思わず目を瞬かせてユーフェミアを見た。何でそんなに頻繁にここに来ているのか、単純に疑問に感じたからだ。 「それもそうですね。実は、スザクに用があったんです」 「スザクに?」 ルルーシュは目を瞬かせてスザクを見、スザクも同じように驚いた顔でルルーシュを見た。その反応で、互いに心当たりがない事はよく解った。 「ルルーシュ。スザクが週末遊びに来てる事、どうして教えてくれなかったんですか?」 ユーフェミアは拗ねたような口調で言うと、スザクに近づいた。 「スザク、この後の予定は何かありますか?」 コトリと首を傾げてユーフェミアが聞いてきた。 「え?えーと、今日はルルーシュの所に泊まりに・・・」 「ええ、ルルーシュとお泊まり会をする事は聞いてますが、それまでの時間の予定は何かありますか?」 「え?えーと」 スザクは再びルルーシュの方へ視線を向けた。困惑し助けを求めてくるスザクと、キラキラとした瞳でスザクを見るユーフェミア。以前からユーフェミアがスザクに会いたがっている話は聞いていたが、どうしてそんなに会いたがっているか理由が解らなかった。実際にその様子を目にしたのは初めてで、ああ、そう言う事だったのかとルルーシュはようやく納得した。 ユーフェミアは、スザクが好きなのだ。 好きだから、接点が欲しくて追いかけているのだ。 これが恋する乙女の力と言うものなのだろう。 だが恋は盲目ともいう。 そのせいで礼節も忘れ、スザクを追いかけてしまっているのか。 いつの間にかそんな年になっていたんだな・・・。 昔は俺のお嫁さんになると言っていたユーフェミアが・・・。 だが、すまないユーフェミア。 恐らくナナリーもスザクが好きだ。 ユーフェミアには悪いが、スザクの事は諦めてもらわなければならない。 確かにユーフェミアも妹だし愛しているが、ナナリーとは比べ物にはならない。 本来ならば応援したいところだが、こればっかりは譲れない。 俺は、迷うことなくナナリーを応援する! ナナリーを他の男に嫁がせるぐらいならば、くっ、本来であればスザクにだってナナリーは!だが、スザクにならナナリーを任せられなくはないから、これ以外に選択肢など存在しないんだ。何よりナナリーはスザクが好きだ。だからこれが一番なんだ。 スザクとナナリーが夫婦になれば、俺はスザクの義理の兄。 スザクは俺たちの家族になる。 ・・・いや、今ナナリーは別人だから、俺は家族になれないのか? それでも俺は、スザクを手放すつもりはない。 一瞬で状況を理解したルルーシュは、眉尻を下げながら口を開いた。 「すまないユフィ。スザクとはこれからランスロットに関する打ち合わせをしなければならないんだ」 「これから、打ち合わせですか?」 「ああ。俺の案をロイドがランスロットにいくつか組み込んだから、そのことについて説明をしてもらう所だったんだ」 前回の事でユーフェミアがKMFに関する知識をあまり持っていない事が解っていたからそう切り出したのだが。 「でもそのお話しは、後でも出来ますよね?だって泊っていくのでしょう?スザク、私は貴方を今日のディナーに誘いに来たのです」 ユーフェミアはにっこりと、本来の目的を口にした。 「え?ディナーって・・・」 思わずつぶやいたスザクは、ルルーシュに視線を向ける。これは、ルルーシュは?と言う意味だろう。ルルーシュは基本的に自分で作ったもの以外口にしない。だからランチやディナーを共にするなら、ルルーシュが作ることになる。話の流れと誘いに来たという事は、つまりルルーシュが作るわけではない。 「ルルーシュもいかがですか?」 スザクがルルーシュを見たことで気づいたのだろうユーフェミアは、はっとした顔のあとそう言ったが、ルルーシュは微笑みながら頭を振った。 「ありがとうユフィ。だけど俺はまだ片付ける事があるから、残念だけど」 「もう、ルルーシュはいつもそうなんだから。でも、スザクはお話だけなのですから大丈夫ですよね?」 若干不貞腐れた後、ユーフェミアはスザクに向き直った。 その顔は、断られるなど微塵も思っていない笑顔で、間違いなくスザクの分の手配も終わらせていることがうかがえた。 「・・・行ってこいスザク。テーブルマナーは覚えているか?皇族に誘われたのだから、失礼の無いようにな」 ここまで皇女がお膳立てしているのだ。 スザクが拒否するのは拙いからとスザクとユーフェミアを送り出した。 ************ スザクと家族!に内心テンションが上がるルルーシュ。 ナナリーとスザクの子供は絶対可愛い! ほわほわでふわふわでくるくるに違いない! 小さな頃はきっとぷにぷにでふかふかだろう! そんなかわいい甥と姪に囲まれて暮らしたい! と妄想しているに違いない・・・。 私の書くルルーシュの脳内に、スザクと自分がと言う思考は無さそうです。 (ナナリーとスザクと自分が一緒に暮らすのは当然で、自分が結婚するという思考ゼロ。ただし今は皇族だから無理) スザルルなのにね。いつも通りのスザルル詐欺です。 でもルルーシュはスザクが大好きです。 |